ぽっぽアドベント2021、3日目「小説を書くことについて」
ぽっぽアドベント2021、3日目を担当します。森井です。
https://adventar.org/calendars/6690
今年のテーマは「私の望みの歓びよ」。
私の歓び、まさしく、それそのものーー2021年の終わりに振り返ってみたいと思います。
それでは聴いてください。
「小説を書くことについて」。
・小説を書くことについて
私の歓び、まさしく、それそのもの。
今の私にとって、小説を書いている時間が、それにあたると思う。
小説を書きたい、書けるようになりたいと思い続けてきた。
実際に書いていた時期も、書けなくなった時期も、書くことをやめた時期も、それどころではなくなってしまった時期も、人生の中でそれぞれにあった。2013年に最初のうつを発症して以来、実に、ことし2021年の頭まで、「頭の中に架空の世界観を広げて、言葉で、物語を織り上げる」ということが、全く出来なくなってもいた。
(余談ながら、その凍りついた営為を再生させてくれたのは、韓国ドラマ「秘密の森」、そして主人公ファン・シモクへの偏愛である。「秘密の森」、ありがとう。シーズン3、切望しております。)
諸々の出来事を経て、いま生活の中に「小説を書く時間」を持ち、静かな気持ちで「書き続けていこう」と思っているーーそのことを幸せに思う。うつとの生活の中で、ささやかでも確かな「回復」の手応えを得ることができたこと。そして、病に加えて年齢を重ねたことで、やっと、自分自身への無用な期待を手放すことができたことを。
両方が重なり合って現在があるのだが、それこそ二十代、三十代の元気にあふれていた時であっても、今のような心境で書くことは到底できなかったことを考えると、後者の効用ーー自分自身に諦めをつけたということが、とても大きかったと思う。
自分自身の技術のほど、力量のほど、「身のほど」。
かつては、それを受け入れた瞬間、自分が爆発四散してしまいそうだった。
でも、いつの間にか、引火するはずの自意識が抜け落ちていた。
今はただ小説を書くことが楽しい。
小説の文章を紡ぎ出す、その時間が楽しい。
描写に情感を入れて、比喩をつかい、実生活で必要とされる文章とは全く異なる、小説の文章を作る。イメージを思い描き、頭の中に言葉をあふれさせて、ビーズを糸に通すように、するするとつなげていく。途中でほどき、やり直す。語順を入れ替える。その繰り返し。その時、自分が満たされていくのを感じる。その作業でしか使われない脳の領域が動き出して、楽しい、生きていてよかった、と、素直に思う。
日々その幸せを味わいたいのだが、「何を書くのか」が決まらないうちは、その時間に入っていくことができない。だから題材を探すし、書き終えるまで走り続けられるように、構成をがんばって練る。ストーリーを作る力が足りないため、毎回半泣きになりつつ、いまはこれが精一杯、と、ほどよく諦めたりもする。現状では、ひとつでも多く「完成」させることが、自分の実りになると思う。なにしろ、二十年以上も迷い、惑い続けてきたのだから、いまはもはや、逡巡する時ではないと思う。
「書くこと」そのものへの迷いが減ることは精神衛生上もありがたく、それだけで、両肩がすっと軽くなる。一方で、実際に生活の中に「書く」ことが入ってくると、日常生活との両立という「困りごと」に再会することになった。
なんといっても、「日常生活がお留守になる」。これは覿面。好きな作品があるとか、好きな人(キャラクターあるいは俳優など)ができた、というのとは段違いに、脳のメモリを奪われる。その意味で、小説を書くことは私にとって心の救いでありつつ、うつにとっては双刃の剣ではないかと思う。書いている間にも脳をつかい、眠って、起きたら今度は仕事に脳を使うわけで、正直、脳を三つ持って、小説を書く時間まで充電しておけたらいいのにな、と、つくづく思う。本数を重ねて、技術や慣れが備わってくれば、この部分も少しは楽になるのかなと思いながら、ぼんやりして階段から足を踏み外したりしないよう、日々、足元に力を込めて歩いている。
もっとうまくなりたい、もっと書けるようになりたい、そう願う気持ちが自分に戻ってきたこと、その気持ちを実行に移せていること。そのことが私にとってなによりの幸福であって、それを考えると、ここまでろくでもない遠回りをし、みずから時間を無駄にしてきたことを悔やむ一方、もう過ぎた時間のことはどうしようもないのだから、これから一歩ずつ進んでいこう、と、体ひとつ、道に立っているような気持ちになる。
自分自身の足りなさは、今も、きっとこの先も、ずっと怖いけれど、やり続けたいと思う。顔を上げて、でも、足元がお留守にならないように、進む足に、力を込めながら。
・さーて、明日のぽっぽアドベント2021は?
明日は、4日目・ちゃんあずさんです!!( https://twitter.com/azucocco )
お楽しみに!!